教室紹介

 

先生のあいさつ

山梨大学大学院 臨床遺伝学 教授 石黒 浩毅

 2022年5月、6年ぶりに山梨大学および同大学院に遺伝医学を専門とする臨床遺伝学講座が開設され、私は当講座の初代教授を拝命することとなりました。臨床遺伝学講座はその名称通り、基礎医学系ではなく臨床医学系に開設されたことも大きな意味を持っております。従来の遺伝難病に加えて生活習慣病、生殖医療やがん治療における遺伝子検査や遺伝子治療が次々に開発される現代医療において2023年6月にはゲノム医療推進法が国会にて成立しました。国内では将来の日本の遺伝医療のあり方や医療倫理の議論が進められるなか、当講座は本学を代表してこの課題に取り組んでいかなければならない責務を担います。

 当講座は大学の臨床教室に課せられた使命である、臨床、教育、研究を果たしていきます。附属病院では遺伝子疾患診療センターのコア診療科として活動をします。主に出生時および小児期に診断と治療が行われてきた遺伝子/染色体疾患のクライエントは小児外科等の治療技術の向上により成人期を迎えるようになり、新たな医療や社会的支援が検討されるようになったこと、化学療法の選択および遺伝性腫瘍に対するサーベイランス計画といったがんゲノム医療が実装されたこと、出生前遺伝学的検査を用いて生殖医療が拡大したこと、精神疾患を含めた多くの疾患にも遺伝相談が求められるようになったこと、など新たな時代の求めに応じます。2022年に日本医学会より「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」が示され、すべての医療従事者が遺伝医学に関する十分な理解と知識および経験を持ち、必要に応じて遺伝医療の専門家と連携することとされました。すなわち当講座は本学ならびに山梨県内の医療機関、保健所ならびに市町村の医療従事者の教育に努めるとともに、市民公開講座などにて県民へ医療の情報提供をしていきます。

 遺伝カウンセリングとは遺伝子疾患についての医学的情報を提供し、クライエントが自ら問題解決を出来るように支援を行うことですが、その心理支援は不十分であることが指摘されています。私は全国で11名しかいない精神科専門医である臨床遺伝専門医のひとりであり、心理支援を含めたクライエントの全人的ケアをチーム医療にて実現したいと考えています。全国でもユニークな遺伝医療を構築して参りますので、何卒よろしくお願いいたします。

山梨大学大学院 臨床遺伝学

教授 石黒 浩毅

 

教室の概要

 臨床遺伝学講座は山梨大学・大学院における臨床医学系講座です。臨床系講座には臨床、医学研究、そして医学教育の3つの責務があります。
 臨床活動では、主に成人期のゲノム医療を担います。遺伝性疾患は従来、その多くが小児期の疾患でした。しかし小児医療技術の発展により、罹患者が成人期を迎えられるようになりました。小児期より認められる症状が成人期において、あるいは成人期になり発症することが明らかとなった症状について、どのような課題を持ちどのような支援を必要とするのか、新たな医療問題が提起されています。がんゲノム医療や生殖医療も成人期の遺伝医療として発展し、益々ニーズが増えています。これら成人クライエントが疾患の症状・予後や血縁者への遺伝について悩みや不安を抱えている場合に、正確な遺伝医学的情報を提供し、身体機能や精神機能の低下に対する医療と社会資源等を提供する遺伝カウンセリングを実施しています。特に精神科専門医・緩和ケア精神科医として遺伝医療の今後の在り方にも新たな提案をしていきます。
 研究活動では、臨床疑問や臨床課題に取り組みます。クライエントの様々な不安の心理学的・精神医学的支援方法の開発や倫理的課題の解決を目的とした臨床研究を行っています。成人期を迎えた希少難病、出生前遺伝学的検査、遺伝性腫瘍、未だ原因遺伝子が特定されていない精神疾患などのクライエントを対象に、全人的苦痛を早期に発見し、的確なアセスメントと治療、そして心理支援を行うことによって苦しみを予防・軽減する、遺伝医療における緩和ケアのパイオニアを目指しています。基礎研究としては、依存症や気分障害・統合失調症といった精神疾患の易罹患性に関する遺伝要因と、遺伝要因を背景としたトリガーとなる環境要因の相互作用の解明を目指し、山梨大学のみならず、国内外の他大学との共同研究を進めています。
 教育活動では、益々発展していく現代のゲノム医療を背景に、本学学生ならびに医療従事者への教育を行うことで大学病院において質の高い医療が提供できるよう教育を行っています。また県内唯一の遺伝医療の教育機関としても、市民講座の提供、ならびに地域保健師や地域医療者への情報提供ならびに教育を行っていきます。